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茂上工芸の歴史
― 江戸指物の伝統を三代にわたり受け継ぐ ―
茂上工芸は、大正元年(1912年)、初代・茂上兵次郎(とよじろう)により創業された、東京・蔵前の地に根差す指物の工房です。
江戸の暮らしと文化に息づく家具「江戸指物(えどさしもの)」の技術と精神を、三代にわたって継承し続けています。
― 初代・茂上兵次郎の創業と職人魂】―
初代・兵次郎は、明治期に江戸指物の名工・富村長松のもとで修行を積み、伝統技術と粋を身につけました。彼が手がけた家具は、装飾を排した端正な造形と、木の質感を最大限に活かした仕上がりが特徴で、江戸の職人ならではの「機能美」と「用の美」を体現しています。
兵次郎は弟子の育成にも尽力し、多くの職人たちに技を伝えました。しかし、昭和20年(1945年)の東京大空襲により工房は焼失。
兵次郎自身も空襲の犠牲となり、この世を去ります。
ただし、彼の残した職人道具の一部は土管の中に隠され、戦火を免れました。これらの道具は現在、江戸東京博物館に展示され、江戸指物の歴史を今に伝えています。
― 2代目・茂上豊二郎による再建と発展 ―
兵次郎の長男・茂上豊二郎は、奇跡的に戦火を生き延び、失われた工房を再建するため、木工技術を一から修行し直しました。
その後、父の遺志を継ぎ、職人としての道を歩みます。
彼は単なる技術の継承にとどまらず、同じ志を持つ仲間とともに「江戸指物協同組合」を結成。行政や関係機関への働きかけを経て、江戸指物はついに国の伝統的工芸品として指定されるまでに至りました。
豊二郎は、技と文化の両面から江戸指物の価値を高め、広く世に伝える重要な役割を果たしたのです。
―三代目・茂上 豊 ― 現代への継承と挑戦 ―
平成7年(1995年)、豊二郎の長男である茂上 豊が三代目を継承しました。現代の三代目は、伝統技術を守るだけでなく、茶室や茶道具、和モダン家具など、時代のニーズに寄り添った作品づくりにも挑戦。
「本物の素材を、丁寧に、永く使えるかたちに」という理念のもと、無垢材の美しさと繊細な細工が融合した作品を生み出し、住宅・施設・寺社など多彩な空間に“和の品格”を提供しています。
江戸の粋と木工の哲学を今に伝える茂上工芸は、単なる家具づくりを超え、人と空間に「和の心」を届ける工房として、これからも歩み続けます。
3代目 茂上 豊